今日はもう、帰ろっか !?

そう口にしたのは隆の恋人、結衣

21:30...

都内の静かなカフェの片隅で、隆は冷水をかけられたような気分になる。

「どうして?今日何かあったっけ?」
「ううん、でもすることがないなら早く帰ってもいいかなって。明日仕事だし。」

結衣は付き合って今年で3年目。
そろそろお互いに結婚を意識し始める頃だ。
しかし最近、2人の間には妙な距離感がある。いわゆる倦怠期。
今日だって何を話すわけでもなくカフェでだらだら過ごしている。

こんな時にアクションを起こすのは決まって結衣の方だ。
東京生まれ東京育ち。シティーガールで自立した女性。
それが結衣。

隆は、千葉県出身

都内で営業マンをしている。
上京したての頃はどこへ行くにも、上ばかり向いて歩いた。
今ではスマホばかり見るようになってしまったが。
「来週こそ、何か進展のある話をしよう。」
そんなことを考えながら隆は帰りの支度を始める。
来週はコンサートデートの約束をしているのだ。
『LoveSweets』を見る為に結衣と六本木へ行く。
きっと素敵な時間になる。

announceimg

Love Sweers Concert

コンサートデートは大成功だった。

2人は久々にデートらしいデートを満喫した。
コンサートの後、夕食を食べている時に結衣から意外な話題が飛び出した。
「隆の地元って千葉だったよね。どんなところなの?」
「えっ。そうだな、菜の花畑があったり、海が近いかな。山武だよ。」
”山武”という地名にピンとこない様子の結衣。

「よかったら、今度の週末にでも案内しようか?」

・・・・・

announceimg

翌週の朝

陽が昇り始めた頃、
隆の運転する車は東京から千葉へ向かっていた。
隆はハンドルを握る手に自然と力が入ってしまう。
何せ、都会育ちの女性に地元を案内するのだから。
そんな隆の緊張をよそに、
都会から離れ緑沢山の風景を楽しそうに眺めている結衣。

announceimg

到着したのは九十九里の菜の花畑

見渡す限り黄色が広がる畑。
結衣は目を輝かせながら花畑へ駆けていく。
「すごーいっ!見て!全部菜の花だよ!」
「東京から全然遠くないのにこんな良いところがあったんだね!ほら見て!」
花に囲まれている結衣。その姿はあどけない少女のようだ。

菜の花畑を満喫した隆と結衣。
「近くにいちご狩りができるところもあるんだけど、行ってみる?」
「うん!行く!」

announceimg

菜の花・いちご狩り

手作りのピザ

いちご狩りも楽しんだ隆と結衣。
摘み立てのイチゴを頬張る2人は目を見合わせる度に笑顔が溢れる。

隆が思った以上に結衣は楽しんでくれている様子。
ほっと胸を撫で下ろす。
そんな時、隆のお腹が鳴ってしまう。
「あ?!隆、イチゴじゃ足りないんでしょ??」
「そうかも…。」
「私もお腹空いてきたし、お昼にしよっか!」
「うん!実は連れて行きたいところがあるんだ!」

announceimg

農園レストラン

隆と結衣が到着したのは菜園が隣接している農園レストラン。
「すっごーい!めっちゃおしゃれなお店だね?!ピザ屋さん?」
「うん!収穫した野菜を自分でトッピングに使って、
生地作りからピザ作りが体験できるんだよ!」
「ええー!楽しそう!!」

announceimg

ピザ作り体験

店内に広がるチーズとトマトソースの香り

食欲をそそる。
焼き上がったピザを見てみると、隆の生地は穴だらけな上に丸くもない。
結衣のピザはお店でみるものと変わらないくらいに綺麗。
決まり悪そうにする隆だが、そんな隆の姿を愛おしそうに眺めている結衣。

「隆って本当、不器用だよねー。」
「最近外食が多かったから、かな…。」
「何それー、言い訳になってないじゃん!」

形はどうあれ味は申し分なく、お腹一杯幸せに浸る2人。
満ち足りた時間がゆったりと過ぎていく。

announceimg

さーて、これからどうしようか?

「そういえば、海が近いって言ってたよね?海ってすぐ行ける?」

どうやら結衣はまだまだ遊び足りないようだ。
隆と結衣を乗せた車は海へと向かっていく。

しばらく車を走らせて海へ到着する2人。
結衣は車から駆け出して行く。

「わー!こんな海初めて見たかも!」

隆と結衣の目の前に広がる遠浅の海。柔らかい水平線がどこまでも続いているようだ。

「都会にいるとビルばっかりだし狭苦しい感じだけど、こうやって見ると地球って広いんだねえー。」
海の向こう側をじっと眺めながら結衣はそう呟く。
潮風が心地良い。

announceimg

2人ともじっと海を眺めている。

「最近、私達について考えてたの。」 「え?」
「これから私達どうして行くのかなって。ーこのままで良いのかなって。」 「うん…。」
「でも何でだろ、隆の地元に来てみて、なんか悩んでたのが馬鹿らしいって思った。」
「どうして?」
「東京だと皆急いでるから、知らない間に私も焦ってたのかも。」
「俺も同じだよ。これからのことを考えるのって大切だけど、 今この瞬間を一緒に楽しむのも重要なんだなって。
それに俺、結衣との未来はー」 結衣のお腹が大きく鳴る。堪らず笑い出す2人。
「もうお腹空いちゃった?」「…少し…。」
「大丈夫、近くにカフェがあるから、ちょっと休憩しよっか!」

announceimg

海・・・九十九里

帰り道。

海を楽しんだ2人は、落ち着いた雰囲気のカフェでリッチな時間を過ごす。

気がつけばもう日が沈み始める頃。
カフェを後にした2人はどこへ向かうでもなく車を走らせる。

名残惜しそうに窓の外を眺めている結衣。
会話はないが、2人はそれに不安を感じることはもうない。

バックミラーのお守りに目をやる隆。
上京する前に親からもらった大切なお守り。
ずっと忘れてしまっていたが、お守りは隆を見守り続けてくれていた。
そう思うと、不思議と勇気が湧いてくる隆。

announceimg

なあ結衣!?

「さっき言いかけたことなんだけどさ。」
「うん?」
「俺、結衣との未来、ちゃんと考えてるから。」

大きく目を開いて隆に向き直る結衣。
「俺、結衣と真剣に付き合ってるから。
もし、不安にさせてたんならごめん。」
「ううん、ありがとう。」

しっかりとした性格の女性だからつい忘れてしまうが、結衣だって言い出せずに待っていることがある、ということに気づいた隆。
大事な話をする時は決まって結衣に任せきりだった。

隆はこれまでの優柔不断さを謝り、そして2人のこれからについて話した。

announceimg

どうしちゃったの隆?

「いつもは真面目な話避けるくせに。」
「何でだろう、でも言うなら今しかないって、そう思ったんだ。」

「嬉しい、今日来てよかった。ありがとうね、誘ってくれて。」
「楽しんでくれた俺もよかったよ。」

「じゃあ、今日はもう帰ろっか。」

どこかで聞いた結衣の台詞。
でも今日の台詞は温かい気持ちが伝わってくる。

「また、連れてきてね、山武。」

「もちろん!」

announceimg

恋する山武♪